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2009年から作り続けている工藤夕貴さんの
日本酒「賜(ギフト)」。
味の追求を極め、どうも去年あたりから
凄いことになっているらしいです。
そこで、今年の瓶詰め作業に
ふらっと訪れたのが
同じ事務所の後輩である大賀埜々。
2022年、全国きき酒選手権で
2位を取ったという彼女に、
「賜」をぜひ味わってもらいたい
ということから始まったこの企画。
瓶詰め作業を手伝いながら、
二人の会話は始まりました。
二人の会話から、「賜」の味を感じる、
不思議な対談です。





工藤夕貴(以下Y)
吟醸や大吟醸に使う酵母だから、ちょっと特殊な育て方をしているお酒で、これだけ削ってなくて、こしひかりで、加水もしてなくて、これほどいいお酒はなかなかないと私は思っているんです。

大賀埜々(以下A)
それはなかなか珍しい造り方をされていますね。

Y なかなか(当初は量が)出来なくて、大吟醸の(小さな)樽で育っているくらいで。吟醸でカスを取ると70%くらいって言われてるんだけど、うちのは72%くらい出るから、それだけこぼさないで作るという贅沢な作り。

A うわぁ。本当に希少なんですね。

Y このあいだは絞りの作業があって、オリを引くのも、濾過しないで手作業でやっています。

A 手作業!? 時間も手間もたくさんかかってるんだ。

Y ここまで愛情がこもっているお酒は日本でここだけだと。
自分が種子から育ててるから。

A おお。そんな素敵なお酒を頂けるんですね。

A (香りを嗅ぎながら)フルーティな香りを推してるお酒はたくさんありますけど、それだけじゃない。ふわりと柔らかい。お米の優しい、懐かしいような気持ちになるいい香りを感じます。

Y 今時なお酒が比較的苦手で、だけど香りがないお酒も好きじゃないから、初めてこのお酒を作った時は、日本中から何十本もお酒をとりよせて、利いてみて、一番好きな香りの酵母を選んで、浮気はせず、その酵母一本という感じになりました。一途に静岡酵母に惚れて。





A そうなんですね。ここも静岡だから地産。地元酒。

Y 一番最初にお酒ができたときはめちゃくちゃ感激したのを覚えてて、それが毎年のことになって、もう何回目なんだろう。たぶん15回目くらいはやっています。このあいだ17年目だって清さん(富士錦酒造代表取締役)に言われて、休んでいた事が3年くらいあったんですけど。



去年から、味が極まってきた

A 今年の出来はどうだったんですか?

Y 今年は良かった! 最高でした。杜氏さんが選んだ酸が出づらい麹に替えて、育ててみたけど、アミノ酸も全然上がってこないし、今年は何もせずにそのまま綺麗でいいお酒になったから、これだけ無添加なのも珍しいんじゃないかなと思います。アルコール度数が高くなりすぎれば加水もするんだけど、もうここ何年も加水をまったくせずに、そのまま無調整で作れています。

A 何年もやることでコツがわかってきた感じですか?

Y 色々わかってきているんだと思います。今は結構、室(むろ)仕事も杜氏さんがこれぐらいは出来るでしょうと、1人で任せてくれる時もあったりして。やっぱりこれだけ長い事作ってくれば、全ての工程がだんだん分かるようになってくるから。

A イメージのお酒に近づいてきてますか?

Y 杜氏さんを信頼しているから、二人で一緒に作らせていただいて、こういう味を狙っていきたいというのが、このままいい感じでできている感じがします。杜氏さんもこの酒を気に入っていただけているから。もうこれは私の大切な財産になってきているというか。





最初は杜氏の方が小田島さんに変わったときに、私のお酒ってお米をほとんど磨かないから、それじゃそんなに美味しいお酒ができるわけないから、それなりのお酒になればいいんじゃない? って言われたんですけど、お酒ができてから急に電話をいただいて、謝りたいと言われたんです。「正直、こんなに美味しいお酒になると思ってなかった。お米の力が凄かったのかもしれない」って。そのときからもうずっと小田島さんの大ファンになって。凄く嬉しくて。わざわざ正直にそういうことを伝えてくれる人が世の中にいるんだなって。それからはもう甘えつつ、二人三脚でほぼ毎日通わせていただいて。





精米歩合90パーセントという「非常識」

A 精米歩合のアイディアは夕貴さんからですか?

Y そうなんです。最初は80パーセントで、今は90パーセント。もともとこしひかりといえば飯米ですよね。山田錦とかはお米が大きいから、そこまで削ってもそれほど支障がないけれど、うちのはご飯のお米だから、削るとロスばかりになっちゃって、ものすごい量がいるし、もったいない。精魂込めて作っているお米だから、削りたくないんです。

A 他の人から勧められた訳ではないんですね。

Y じゃないですね。削らないといいお酒にならないというセオリーがあるから、削れば削るだけいいという感覚がありますよね、だから90パーセントくらい削ったりするのが珍重されたりするから。私は大事に育てたお米を削りたくないし、でも削らずにどうやって吟醸みたいなきれいな香りのお酒になるのかっていうのが大テーマだったんです。それで完成したのが、この純米吟然。友人で仕事仲間の沼畑さんから、このお酒は純米酒の作りじゃないから、新しいカテゴリーを作りましょうという事で、吟醸の吟、自然の然から、純米吟然と名付けていただきました。





A 年月を重ねたことで、お米を大切にする酒造りという難しい挑戦を極めていってるんですね。

Y そうかもしれません。なのに誰にも知られていないという寂しさもあります(笑)。でも愛ですね。愛。

A 前から夕貴さんがお米づくりされていることは聞いていたんですが、やっと来られて、一瞬で夕貴さんのお酒造りの大ファンになりました。

Y 嬉しいです! そう言ってもらえて。

A ほんとに実際に来てみると、ガチなんで(笑)。

Y 愛なんです。愛。私はガチです(笑)。

A まさかの日本酒ガチ造りとは・・・。

Y それをさせてもらっているので、本当に富士錦酒造の清さん、小田島さん、みなさんには感謝なんです。はじまりは地元のみなさんとお酒を飲んでいるときで。

A そうなんですね。





本気で日本酒を作るお姉さんに惚れた

A 瓶詰めの作業はベルトコンベアでやっているのはみたことがあるんですが、手で入れるのは初体験でした。

Y 今は酒母造りのところから、蒸米を足す作業とか、始めの作業を手で返すようになったんです。櫂を入れないで、体ごと樽の中に入ってやっているような感じです。 櫂ではなく手で混ぜるとお米がつぶれないし、温度が均等に混ざるのが分かるし、菌の力でできあがってく作業だから愛情をかければかけるだけ応えてくれる気がするんです。これほど手をかけたお酒はないと思います。

A 酒作り中に歌はうたわれたんですか?

Y 歌、うたいました。毎年ね。(笑)





A 夕貴さん手がすっごく綺麗だから。お酒造りの賜物ですね! お会いするといつもいきいきしていて。やりたいことがいつまでもあるってすごく大事だなと。私はもうすぐ50歳になるんですけど、なんかほんとにやりたいことがはっきりしてなくて、漠然と不安感じたり、これからどうしようって。

Y その気持ちわかる。でもなんか見つかるんですよね。なんとなく。今日の朝も寝ぼけながら考えてました。

A 私のまわりにこういう大人になりたい、こういうおばちゃんになりたいっていうおねえさんがあまりいなくって。今日夕貴さんと作業を一緒にさせてもらったらびっくりしました。「いるー!」って(笑)。

Y そう言ってもらえるとどんどん飲ませちゃうよ(笑)。でもほんとにいつもあたたかくここで迎えていただいて。すごく私、面倒くさいことをお願いしていると思うんですけど、全力でサポートしていただいて。私はもともと、「お酒は百薬の長」って言われた時代のお酒にできるだけ近く、でも味は洗練されていて美味しいものにしたいっていう、矛盾した感情があったから。単なる自然酒で終わらせたくないという。

Y 本来あるべき日本酒のスタイルというのが感謝されない時代になってしまったから。それでもきれいな感じにいけたらいいなって。
(続く)






























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